- 量子力学を既習であり、経路積分を自習したい学部生(学部3〜4年前期程度)
- 場の量子論の入門として経路積分を学びたい大学院生(修士課程程度)
この記事では、場の量子論の入門として「相関関数の経路積分表示」をご紹介します。
本記事を読むことで
経路積分量子化の手順で、重要な物理量の一つである「遷移確率」を計算する感覚を掴んで頂けると幸いでございます。
本記事を執筆している、私トーマは、物理学者として勤務しています。
そんな私が分かりやすく解説いたします。
導入・計算の準備
演算子の時間依存性
量子力学では、座標演算子 ˆq と共役運動量演算子 ˆp とを基本要素としています。
これらの演算子は交換関係
[ˆq,ˆp]=iℏ
を満たします。
なお以下では、ディラック定数が ℏ=1 となるような単位系を扱うこととします。
系のハミルトニアン演算子 ˆH(ˆp,ˆq) はこれらに依存する関数であるとします。
ハイゼンベルグ描像により、座標および共役運動量演算子の時間依存性は
ˆq(t)=exp(iˆHt)ˆqexp(−iˆHt)ˆp(t)=exp(iˆHt)ˆpexp(−iˆHt)
と書きます。
例えば、時間に依存する座標演算子の固有状態を
ˆq(t)|q,t⟩=q|q,t⟩
のように導入します。
この固有状態は、シュレディンガー描像の固有状態 |q⟩ と
|q,t⟩=exp(iˆHt)|q⟩
という関係にあります。
共役運動量演算子の固有状態 |p,t⟩ および |p⟩ に関しても、式 (4) & (5) と同様に書けます。
固有状態の内積等
シュレディンガー描像の、位置と共役運動量に関する固有状態 |q⟩ および |p⟩ に関しての内積 ⟨q|p⟩ を計算します。
まず内積 ⟨q|q′⟩ に、運動量に関する完全系 ∫dp|p⟩⟨p|=1 を代入すると
⟨q|q′⟩=∫dp⟨q|p⟩⟨p|q′⟩
となります。
また ⟨q|q′⟩=δ(q−q′) なので、フーリエ変換を用いると
⟨q|q′⟩=δ(q−q′)=∫dp2πexp[ip(q–q′)]
となります。
以上のことから、式 (6) と式 (7) を比較することで
⟨q|p⟩=1√2πexp(iqp)
を得ました。
遷移確率の計算
量子力学における重要な物理量として「遷移確率」があります。
時刻 ti に位置 xi にあった粒子が、時刻 tf に位置 xf に遷移する確率は
⟨qf,tf|qi,ti⟩=⟨qf|exp[iˆH(tf–ti)]|qi⟩
で与えられます。
ここで、時間間隔を N 等分し
tm=ti+mϵ,ϵ=tf–tiN,m=0,⋯,N
と定義します。
t0=tI、tN=tf となります。
さらに、時刻 tm における完全系 ∫dqm|qm,tm⟩⟨qm,tm|=1 を式 (9) に代入すると、遷移確率は以下のように式変形できます。
⟨qf,tf|qi,ti⟩=⟨qf,tf|(∫dqN−1|qN−1,tN−1⟩⟨qN−1,tN−1|)×⋯×(∫dq1|q1,t1⟩⟨q1,t1|)|qi,ti⟩=∫dqN−1⋯dq1⟨qN,tN|qN−1,tN−1⟩⋯⟨q1,t1|q0,t0⟩
と表すことが出来ます。
時刻 tm での要素
式 (11)より、時刻 tm での遷移確率の要素は
⟨qm+1,tm+1|qm,tm⟩=⟨qm+1|exp(−iˆHϵ)|qm⟩
と書けます。
式 (12) に、共役運動量に関する完全系 ∫dpm|pm⟩⟨qm|=1 を代入すると
⟨qm+1,tm+1|qm,tm⟩=∫dpm⟨qm+1|pm⟩⟨pm|exp(−iˆHϵ)|qm⟩
となります。
ここで、iˆHϵ=0 近傍でのテイラー級数展開
exp(iˆHϵ)=∞∑j=0(iϵ)jj![ˆH(ˆp,ˆq)]j
を考え、かつ
⟨pm|ˆH(ˆp,ˆq)|qm⟩=H(pm,qm)⟨pm|qm⟩
なので、式 (8) を利用すると
⟨qm+1,tm+1|qm,tm⟩=∫dpmexp[−iH(pm,qm)ϵ]⟨qm+1|pm⟩⟨pm|qm⟩=∫dpm2πexp[ipm(qm+1–qm)–iH(pm,qm)ϵ]
を得ます。
N→∞ の極限
式 (16) を式 (11) をに代入すると
⟨qf,tf|qi,ti⟩=limN→∞∫[N−1∏m=1dpmdqm2π]dp02πexp[iN−1∑m=0[pm(qm+1–qm)–H(pm,qm)ϵ]]≡∫[dpdq]exp[i∫tftidt(p˙q−H(p,q))]
と書けます。
ここで、離散変数 (pm,qm) が連続変数 (p,q) になり、 [dpdq] で経路積分の測度を表しています。
ラグランジアンの導入
ここでハミルトニアン演算子が
ˆH(ˆp,ˆq)=12ˆp2+V(ˆq)
と書けるとすると、式 (17) で p に関するガウス積分を実行して
⟨qf,tf|qi,ti⟩=∫[dq]exp[i∫tftidt(12˙q2–V(q))]≡∫[dq]exp[i∫tftidtL(q,˙q)]
と書けます。
ただしここで、L(q,˙q) はラグランジアンです。
ここで作用 S を
S≡∫tftidtL(q,˙q)
と定義すると、遷移確率はexp(iS) の q 積分の形で表すことが出来ます。
まとめ
1自由度の量子力学の経路積分量子化の手順で
「遷移確率」の計算をまとめました。
本記事をサクッと読んだ上で、以下に示す参考書籍を基にして、手を動かしてより詳細な議論を行なってみて下さい。
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