【東大の研究者が解説】論文の読む際のたった1つのコツ:博士課程編

5. 進路や自己啓発系

・修士課程を経て研究経験を積んだけど、業績を出すにはまだ遠い

・実際に論文を書いているけど、自分の研究の背景やトレンドなどが上手く書けなくて困っている

・新しい研究のアイデアが全然思いつかない

こういった悩みを抱えた読者さんを想定しています。

この記事では、東京大学で物理学者として勤務している私トーマが
多くの大学院生を悩ませる「論文を読むコツ」について解説します。

ある程度研究経験のある博士課程の院生は、さらにその先の悩みとして
「どうやったら業績(論文出版)を出せるんだろう」
という悩みを抱えますよね。

そんな状況に対する有効な打開策は
「大量の論文を読む。」
ことです。

過去の記事

では「精読」の重要性を説きました。
それに対し、博士課程では、精読よりも「多読」が大事になります。

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論文読解には「レベル」がある

論文を読むコツ:修士課程編でも書きましたが、論文読解にはレベルがあります。
今一度、おさらいしたいと思います。

  • レベル0:辞書やGoogleの力を借りれば、英文の機械的な翻訳ができる。でも内容はチンプンカンプン。
  • レベル1:一通り目を通せば、書いてある内容が5〜6割程度は理解できる。精読すれば8割程度は理解できる。
  • レベル2:書いてある内容だけでなく「その論文の研究分野全体における位置付け・方向性」が分かる。また、その論文の内容を基に「自分ならどんな研究をするか?」を考えることができる。
  • レベル3:その論文に書かれている事だけでなく「書かれていない事」まで分かる(←ここまで来れば大学の教員レベル?)

大学院修士課程を経て、それなりに研究経験を積んだ博士課程の院生の多くは、レベル1にいると思います。
レベル0だった学部時代や修士時代の頃と比べると、指導教員(レベル3)との差も少し縮まり、議論も苦ではなくなっているかもしれません。
(そんな事もない?笑)

しかしそれでも、自身と教授との知識量の差および見識の差などで圧倒されていませんか?
以前よりレベルアップしたことは実感しつつも「研究者としてはまだ何かが足りない」とモヤモヤしていませんか?
もっと悪いことに、これまで苦労してきた経験をこじらせて「俺は地頭が悪くて理解力も低いし、アイデアも浮かばないし、きっと才能がないんだ」とか思い込んでいませんか?

そんな辛い思いを抱えた博士課程の院生さんが、きちんとレベルアップして悩みを解決できるように、以下でそのやり方を解説したいと思います。
私の経験談が参考になれば幸いです。

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博士課程の院生は「レベル1→レベル2」を目指す:論文を多読しよう

冒頭、および先ほどのパートでも述べた

  • 業績が出せない
  • 研究への理解力が足りない
  • アイデアが出てこない

などの悩みを解決するのに非常に有効な手段があります。

それは
とにかく大量の論文を読むこと(多読)
です。

最低限、修士課程の頃に精読した数本の論文の参考文献欄にあるものは、全て読みましょう。
それだけでも、およそ100本程度はあると思います。

たくさんの論文を読んで、研究に対する純粋な「知識量」を養いましょう。

「能力が低いから業績が出せない」のではありません。
「頭が悪いから研究を理解できない」のではありません。
「地頭がいいからアイデアが浮かぶ」のではありません。
これらの鍵を握るのはとにかく「知識量」なのです。
逆に言うと、コツコツ知識量を積み上げていけば、記事冒頭に挙げた悩みは、あっさりと解決します。

以下では、この「多読」の詳細および効果について、解説します。

一本論文の理解度は5〜6割でいい

レベル1に達した博士課程の院生の皆さんは、手を動かすなどの努力をそこまでしなくとも(精読しなくても)、英文を頭の中で翻訳するだけで、論文を5〜6割方理解できると思います。

多読では
理解度5〜6割程度でいいから、次々と色んな論文を読み進める
ことを心がけましょう。

10割の理解はまず無理なので諦めましょう。
精読をすれば8割程度理解できるでしょうが、論文を読む際には、完璧主義になり過ぎないことも重要です。

ここではしっかり読むよりも、自分の研究周辺の論文に可能な限り多く目を通すことが大切です。

分野全体を俯瞰できる & 自身を客観視できる

この「分野全体の俯瞰」こそが、論文多読の最大のメリットと言っても過言ではないでしょう。

分野全体を俯瞰すれば、例え新しい研究知識に出会っても「ああ、なるほど。あの論文で読んだあの知識を発展させたものだな?じゃあ、分野で言うとあの辺に位置しているのだな」と一瞬でざっくり理解できます。

そう、つまり
「研究への理解力」が高まるのです。

また研究分野全体を見渡すことで、自分自身の研究の位置付けが客観的に見えやすくなります。
自分の内側に籠っているだけでは、自身を客観視できません。
他研究者の知に触れ、分野全体における自分の立ち位置を正確に理解することが出来るのです。

これが出来るようになれば、いざ論文を執筆する際にも背景・トレンドなどを書く際に非常に役に立ちます。
つまり
論文を執筆する能力(業績を出す能力)
が上がるのです。

新しいアイデア(既存の知識+α)を生み出す下地ができる

よく誤解されがちですが、研究のアイデアは0から生み出されるものではありません。
ニュートンやアインシュタインなどの歴史的大天才たちでさえも
「先人たちによる既存の知識にプラスαする」
ことで、偉大な業績を生み出したのです。
(まぁ、これら大天才はそのプラスαがデカすぎるのですが笑)

そうです。
新しいアイデアとは「既存の知識+α」のこと
なのです。

アイデアを生み出す大前提は、先人たちによる既存の知識を抑えることです。
だからこそ論文をたくさん読むことで、新しいアイデアを生む下地を形成することが出来るのです。

論文を読み分野全体を俯瞰することで、他人のアイデアに多く触れることで、「今の研究分野に足りないもの・未解決の課題」が見える。
その結果「課題を解決するための新しい研究・アイデア」を着想することが出来るようになる。

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まとめ

  • 学部や修士課程の内は、論文読解に関して「レベル1→レベル2」を目指すべし
  • そのためには、一本の論文の理解度は5〜6割で良いので、大量の論文を読むこと(多読)が有効
  • 多読により、研究分野全体を俯瞰して見渡せるだけでなく、自身を客観視できるし、新しいアイデアを生み出す下地もできる

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