特殊相対論入門:平坦な時空とローレンツ変換【東大研究員が解説】

4. 科学・物理学(一般の人向け)
想定する読者層
  • 特殊相対論の授業が始まる前に予習したい人(学部1〜2年前期程度)
  • 特殊相対論の授業の復習をしたい人(学部2年生程度)

この記事では、特殊相対性理論の入門編として「平坦な時空」および「ローレンツ変換」をご紹介します。

本記事を読むことで
特殊相対論を基礎付ける、時空に対する変換則を整理し、今後の学習のステップとして活用して頂けたらありがたいと考えております。

本記事を執筆している、私トーマは、東京大学で物理学者として勤務しています。
そんな私が分かりやすく解説いたします。

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時空

時間と空間を合わせて「時空」と呼びます。

我々は、時間 \( t = x^{0} \) と3次元空間 \( (x^{1}, x^{2}, x^{3}) \) を合わせた4次元時空で暮らしています。
ここではより一般的に、空間を \( (d-1) \) 次元に拡張した \( d \) 次元時空を取り扱いたいと思います。

計量テンソル・平坦な時空

時空内で、微小時間 \( dx^{0} \) の間に、空間座標が \( dx^{1}, \cdots, dx^{d-1} \) だけ変化したとします。
時空内での座標変化分の大きさ(移動距離)を \( ds \) とした時、一般には以下のような関係式が成り立ちます。
\begin{eqnarray}
ds^{2} = \sum_{\mu,\nu=0}^{d-1} \eta_{\mu\nu} dx^{\mu} dx^{\nu} \tag{1} \label{ds}
\end{eqnarray}
なお、 \( \eta_{\mu\nu} \) を計量テンソルといいます

特に、計量テンソルが
\begin{eqnarray}
\eta_{\mu\nu} = \left \{
\begin{array}{ll}
-1& (\mu=\nu=0) \\
1 & (\mu=\nu=1, \cdots, d-1) \\
0 & ( \mu \ne \nu ) \\
\end{array}
\right., \tag{2} \label{metrict}
\end{eqnarray}
と表される場合、つまり \( ds \) が
\begin{eqnarray}
ds^{2} = -\left( dx^{0} \right)^{2} + \left( dx^{1} \right)^{2} + \cdots + \left( dx^{d-1} \right)^{2} \tag{3} \label{ds2}
\end{eqnarray}
と書ける場合、このような時空を特に「平坦な時空(ミンコフスキー時空)」と呼びます。

特殊相対性理論(および私たちの身の回り)では平坦な時空において議論しますが、一般相対性理論では重力によって「曲がった時空」において議論します。
当然、曲がった時空では計量テンソルの表式が変わります。

平坦な時空内の座標の1点は、特に「世界点」と呼ばれています。
物体(質点)運動は、この時空内で曲線として表されますが、そのような線を「世界線」と言います。また、平坦な時空における \( ds \) つまり式 \eqref{ds2} を「世界長さ」といいます。

アインシュタインの縮約

ベクトルやテンソルの積において、繰り返し現れる添字に関して和を取ることを「アインシュタインの縮約」と言います
この縮約のルールの下では、時空内の移動距離 \( ds \) つまり式 \eqref{ds} は、和記号を省略し
\begin{eqnarray}
ds^{2} = \eta_{\mu\nu} dx^{\mu} dx^{\nu} \tag{4} \label{ds3}
\end{eqnarray}
と書きます。
繰り返し現れる \( \mu, \nu \) に関して和を取ります。

以下のセクションでも、このアインシュタインの縮約に基づいて定式化していきます。

なお、添え字の上げ下げは
\begin{eqnarray}
A_{\mu} = \eta_{\mu\nu} A^{\nu}, \hspace{1em} A^{\mu} = \eta^{\mu\nu} A_{\nu} \tag{5} \label{agesage}
\end{eqnarray}
と計量テンソルを用いて行います。
ただし、ここで \( \eta^{\mu\nu} \) を
\begin{eqnarray}
&& \eta^{\mu\nu} \eta_{\nu\rho} = \delta^{\mu}_{\,\,\rho} \tag{6} \label{inv1} \\
&& \delta^{\mu}_{\,\,\rho} = \left \{
\begin{array}{ll}
1 & (\mu=\rho) \\
0 & (\mu \ne \rho) \\
\end{array}
\right. \tag{7} \label{inv2}
\end{eqnarray}
と定義しました。

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座標の線形変換

以下では平坦な時空、つまり計量テンソルが、式 \eqref{metrict} を満たす場合について考えます。

また、行列 \( \Lambda \) を用いた座標の線形変換
\begin{eqnarray}
x^{\mu} \rightarrow x^{\prime \mu} = \Lambda^{\mu}_{\,\,\nu} x^{\nu} \tag{8} \label{lintra}
\end{eqnarray}
を考えます。

ローレンツ変換とポアンカレ変換

行列 \( \Lambda \) が
\begin{eqnarray}
\eta_{\mu\nu} \Lambda^{\mu}_{\,\,\rho} \Lambda^{\nu}_{\,\,\sigma} = \eta_{\rho\sigma} \tag{9} \label{lorentz}
\end{eqnarray}
を満たすとき、世界長さ 式 \eqref{ds2} を不変に保つことが分かります
以下に証明を示します。

世界長さが不変であることの証明

座標変換 式 \eqref{lintra} の下で、世界長さが \( ds \rightarrow ds^{\prime} \) と変換されるとします。
この時
\begin{eqnarray}
\left( ds^{\prime} \right)^{2} &=& \eta_{\mu\nu} dx^{\prime \mu} dx^{\prime \nu} \notag \\
&=& \eta_{\mu\nu} \left( \Lambda^{\mu}_{\,\,\rho} dx^{\rho} \right) \left( \Lambda^{\nu}_{\,\,\sigma} dx^{\sigma} \right) \notag \\
&=& \left( \eta_{\mu\nu} \Lambda^{\mu}_{\,\,\rho} \Lambda^{\nu}_{\,\,\sigma} \right) dx^{\rho} dx^{\sigma} \tag{10} \label{lorentz2}
\end{eqnarray}
となります。
この式に、式 \eqref{lorentz} を代入すると
\begin{eqnarray}
\left( ds^{\prime} \right)^{2} &=& \eta_{\rho\sigma} dx^{\rho} dx^{\sigma} \notag \\
&=& ds^{2} \tag{11} \label{lorentz3}
\end{eqnarray}
となります。
以上のことから、線形変換 式 \eqref{lintra} の前後で、世界長さが不変であることが示されました。

このように世界長さを不変に保つ、式 \eqref{lorentz} を満たす線形変換を「ローレンツ変換」と言います。
このローレンツ変換全体は、ローレンツ群をなします。

また世界長さ 式 \eqref{ds2} は並進変換 \( x^{\mu} \rightarrow x^{\prime \mu} = x^{\mu} + a^{\mu} \) に対しても不変です。
ただし、\( a^{\mu} \) は定ベクトルです。

並進変換とローレンツ変換を合わせて「ポアンカレ変換」と言います。
このポアンカレ変換全体も、ポアンカレ群をなします。

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ユークリッド計量

相対論では \( t \rightarrow t_{\mathrm{E}} = it \) としてユークリッド化した時間 \( t_{\mathrm{E}} \) をしばしば用います。

この場合 \( t_{\mathrm{E}} = x^{d} \) として、時空座標ベクトル \( x^{\mu} \) を用います。
ただし \( \mu = 1, \cdots, d \) とします。

この時、世界長さは
\begin{eqnarray}
ds^{2} = \delta_{\mu\nu} dx^{\mu} dx^{\nu} \tag{12} \label{ds4}
\end{eqnarray}
と書けます。
ただし \( \delta_{\mu\nu} \) はクロネッカーのデルタであり
\begin{eqnarray}
\delta_{\mu\nu} = \left \{
\begin{array}{ll}
1 & (\mu=\nu) \\
0 & (\mu \ne \nu) \\
\end{array}
\right. \tag{13} \label{delta}
\end{eqnarray}
と定義しました。

このように、ユークリッド化した時間 \( t_{\mathrm{E}} \) を用いた計量を「ユークリッド計量」と言います。

ユークリッド計量における線形変換群

ユークリッド計量における世界長さ 式 \eqref{ds4} は、式 \eqref{lorentz} を満たす線形変換(ローレンツ変換)の下で不変となっています。
(証明は省略します。上記の証明と同様に、手を動かして確認してみて下さい)

この場合の変換は、座標の直交変換、あるいは回転変換となっています。
直交変換全体のなす群は「直交群」と呼ばれ \( O(d) \) と表されます。
また、直交群 \( O(d) \) の要素は

  1. 無限小変換の積み重ねで表される部分(行列式 = 1)
  2. それ以外(行列式 \( \ne \) 1)

に分けることができます。
前者を特に「特殊直交群」と言い \( SO(d) \) と表されます。

また、\( -1 \) の対角要素が \( p \) 個で \( +1 \) の対角要素が \( q \) 個、かつ非対角要素が \( 0 \) のテンソル \( \theta_{\mu\nu} \) が式 \eqref{lorentz} を満たすとき、つまり
\begin{eqnarray}
\theta_{\mu\nu} \Lambda^{\mu}_{\,\,\rho} \Lambda^{\nu}_{\,\,\sigma} = \theta_{\rho\sigma} \tag{14} \label{lorentz4}
\end{eqnarray}
となる時
「線形変換 式 \eqref{lintra} 全体は、特殊直交変換群 \( SO(p,q) \) をなしている」
と言います。

つまり、ローレンツ変換全体は、特殊直交変換群 \( SO(1,d-1) \) をなしており
ユークリッド計量下でのローレンツ変換全体は、特殊直交群 \( SO(0,d) \) をなしている
と言えます。

まとめ

特殊相対論の入門として
「平坦な時空」と「ローレンツ変換」基本的な事項をまとめました。

本記事をサクッと読んだ上で『ほんとにそうなるの?』と思った方は、以下に示す参考書籍を基にして、手を動かして証明してみて下さい。

参考書籍

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